「、、、今年の米アカデミー賞授賞式に多少の波紋を投げかけたとすれば、長編ドキュメンタリー賞の「フォッグ・オブ・ウォー」(E・モリス監督)だろう。ベトナム戦争を指揮したR・マクナマラ元国防長官への23時間に及ぶインタビューを基につくられた作品である。
受賞あいさつでモリス氏は、イラク戦争をベトナム戦争に対比し「40年前、この国はウサギの巣穴に落っこちて多数の人間が死んだ。いままたウサギの巣穴に落ちていくのではないかと心配だ」と述べた。
映画公開を機に、87歳の元国防長官に改めて注目が集まっている。母校のカリフォルニア大バークリー校で先月催された討論会への参加は、とりわけ興味深いものだった。というのも、バークリー校は68年の「学生の反乱」の拠点であり、ベトナム反戦運動の最も激しい大学の一つだったからだ。
マクナマラ氏は語った。「人類は20世紀に1億6千万人もの同胞を殺した。21世紀にも同じことが起きていいのか。そうは思わない」。冷徹な合理主義者と評されたかつての戦争指導者が「反戦」を語り、「旧敵」は大きな拍手を送った。
討論会に出席した息子のクレイグ氏も、反戦運動に加わった「旧敵」のひとりだった。「父は戦争の亡霊につきまとわれていると思う。いまは、その亡霊と対決する使命を果たしている」と米紙に語っていた。
95年の回顧録でベトナム戦争の反省を公にしていたマクナマラ氏は、映画のインタビューでも「誤りを犯すのが人間だ」と、改めて人間の弱さを語ったそうだ。」
以上2004年03月03日《天声人語》より一部引用
バークリー市はサンフランシスコ市の中心部から郊外電車に乗って八つ目の駅。駅のすぐそばのカリフォルニア大学バークリー校は60年代にはベトナム反戦運動で、70年代には対抗文化の中心として名をはせ今はイラク侵略に反対する全米の平和運動の中心地でもある。バークリーの市議会は米政府のアフガニスタン空爆を非難する決議を採択したこともある。全米の世論調査でアフガン空爆賛成が92%という数字が出た中で地方の一議会が敢然と反対の意思表示をした。
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